読むと、ものすごく感情を揺さぶられて涙が出る一歩手前のような状態が続いた後、少し元気になれます(『困ってるひと』感想)

タイトルは、あくまで私の場合です。 

困ってるひと

困ってるひと

 

 概要とかあらすじはいちいち書かないよー。

この本、最近古本屋で買った2011年8月発行の雑誌『ケトル』の巻末のカルチャーコーナーで薦めている人が2人もいたことから興味を持って読みました。2011年の本だから出版されて割とすぐの時期から話題になっていたんだね。私はこの本の存在は知っていたけど、そこまで話題になっていたことは知らなった(『桐島』同様、いろいろあって本を読む時間がなかった問題)。その後文庫にもなったということは、それだけ多くの人の心を掴んだってことなんだろう。

 

とにかくすごいユーモア。常に熱はあるし痛みはあるし、検査の様子とか「おしり流出」の処置の様子とか、とても大変な状況のはずなのに、文章は全編がユーモラス。そうしなければ書ききれなかったのだろうが、それだけではなく作者の大野さんの人柄もあると思う。あとやたらと「女子」という記述が出てくるんだけど、これは大野さんがそこだけは譲れない部分なのかな。

 具合が悪くなってから検査を受けて難病とわかり、入院し、探りながら治療をし行政手続きをし、最後には自分から退院して一人暮らしを始める(ただし、病気は続く)。時系列通りに本は進んでいくんだけど、単に出来事をなぞっているだけではなくて、後半の「おしり流出」から恋そして退院へは文章にどんどん力が入っていくので、疾走感がすごい。感情を揺さぶられて、もう常に涙が出る一歩手前のような状態で読み進んだ。そして読み終わったあと、改めて「はじめに」で彼女がいう「絶望は、しない」ということがとても心強く思えた。

 

難病になったことについて彼女は「くじをひいた」と書いているけれど、これほどまでに大変なくじを引いても、生きていくのが人なんだなあ。

彼女の「エクストリームな」苦労とは比べようもないが、私も社会的には弱者であるので(非正規で貧困なシングルマザーね。あと、そこにいたるまでの諸々の戦いね。そして、戦いは続く)、現状の綱渡り感と、制度のめんどくささには共感した。

いつ、誰が、どのように「当事者」になるかなどわからないが、たいていのひとは何事かアクシデントに遭遇したり、病気になったり、老いたり、死んだりする。ギャンブルのように、ロシアンルーレットのように、宝くじのように。それらはあまり考えたくないことがらではあるが、あまりにも関心を持たず放置プレイをしすぎたため、「当事者」となったとたんに、砂のお城で「モンスター」と闘わされることになる。

我が家なんて私だけでなく誰か一人に何事かあれば立ちゆかなくなってしまうから。もちろん生き延びる方法はあるだろうけど、今と同じようには暮らせなくなってしまうだろう。でも、生きていこうと思った。