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太宰治『ダス・ゲマイネ』が好きすぎて…!

太宰治を食わず嫌いしていて何となく読む気になれず、数年前になぜか『富嶽百景』を「読まなければ!」と決意して文庫本『走れメロス』を買ったが結局なじめなかった。ところが最近何気なく文庫本『走れメロス』を全部読んだのだが、その中の『ダス・ゲマイネ』がとても面白かった。それからは『ダス・ゲマイネ』ばかり何度も読んでいた。

『ダス・ゲマイネ』は4人の若者が同人誌を作ろうと計画するが、結局発行できずに終わる話だ。物語は佐野次郎と呼ばれる青年の語りで始まる。第1章は時系列が変わっていて、佐野次郎はまず失恋について語り、馬場数馬との出会いについて語った後、失恋までの時間をたどり直していく。彼の語りそのものも、歌うように自由に進んでいく。振り落とされまいとついていくうちに、すっかり物語の世界に入り込んでしまう。

最初は「私」である佐野次郎が太宰なのかと思って読み始めたが、嘘つきで饒舌な馬場数馬が出てくると、馬場こそが太宰なのかもと思わせる。だが、馬場は佐野次郎に自殺を思いとどまらせる手紙を書き、さらに「太宰治というわかい作家」(とても「嫌な奴」として描かれている)まで出てくるので、すっかり混乱してしまう。混乱しながら味わう『ダス・ゲマイネ』の会話はとても楽しい。だから佐野次郎があんな形で「退場」してしまったことは悲しい。それは物語上仕方のないことなのだろうし、その後も馬場と佐竹の会話は続くが、私は佐野次郎を通して、饒舌な馬場や皮肉屋の佐竹の話をいつまでも聞いていたかった。だから私は何度もこの物語を読んで、薄暗い中で繰り広げらる彼らの会話の世界に何度も入っていく。終わってしまうことがわかっていても、それはとても楽しい。

 

走れメロス (新潮文庫)

走れメロス (新潮文庫)