6月の夜の音

昨日まで扇風機だけだったけど、今夜は暑いので今年初めてエアコンもつけた。天気予報によると夜中に雨が降るらしいので洗濯物を外に干すのはやめて、寝室とは別の部屋に室内用の物干し台を置いて洗濯物をかけて、除湿乾燥機を乾燥モードでつけている。食洗機も働いている。狭い家の中が、何だかうるさい。
こんな風に常に何かの音が聞こえている状態で生活するのは私は好きではないのだが、子供達は別に気にならないらしい。
今、食洗機は乾燥の段階に入っている。そのうち乾燥が終わって食洗機が止まって、
30分タイマーをかけたエアコンが止まって、
1時間タイマーをかけた扇風機が止まって、
その後深夜番組を予約していたレコーダーか勝手に動いて、
止まって、
除湿乾燥機が6時間くらいたって

止まって、


朝になると目覚まし時計が鳴るだろう。

あ、冷蔵庫だけはずっと動いているな。

太宰治『ダス・ゲマイネ』が好きすぎて…!

太宰治を食わず嫌いしていて何となく読む気になれず、数年前になぜか『富嶽百景』を「読まなければ!」と決意して文庫本『走れメロス』を買ったが結局なじめなかった。ところが最近何気なく文庫本『走れメロス』を全部読んだのだが、その中の『ダス・ゲマイネ』がとても面白かった。それからは『ダス・ゲマイネ』ばかり何度も読んでいた。

『ダス・ゲマイネ』は4人の若者が同人誌を作ろうと計画するが、結局発行できずに終わる話だ。物語は佐野次郎と呼ばれる青年の語りで始まる。第1章は時系列が変わっていて、佐野次郎はまず失恋について語り、馬場数馬との出会いについて語った後、失恋までの時間をたどり直していく。彼の語りそのものも、歌うように自由に進んでいく。振り落とされまいとついていくうちに、すっかり物語の世界に入り込んでしまう。

最初は「私」である佐野次郎が太宰なのかと思って読み始めたが、嘘つきで饒舌な馬場数馬が出てくると、馬場こそが太宰なのかもと思わせる。だが、馬場は佐野次郎に自殺を思いとどまらせる手紙を書き、さらに「太宰治というわかい作家」(とても「嫌な奴」として描かれている)まで出てくるので、すっかり混乱してしまう。混乱しながら味わう『ダス・ゲマイネ』の会話はとても楽しい。だから佐野次郎があんな形で「退場」してしまったことは悲しい。それは物語上仕方のないことなのだろうし、その後も馬場と佐竹の会話は続くが、私は佐野次郎を通して、饒舌な馬場や皮肉屋の佐竹の話をいつまでも聞いていたかった。だから私は何度もこの物語を読んで、薄暗い中で繰り広げらる彼らの会話の世界に何度も入っていく。終わってしまうことがわかっていても、それはとても楽しい。

 

走れメロス (新潮文庫)

走れメロス (新潮文庫)

 

 

かのんちゃん

夕方ママと一緒に自転車でスーパーに買い物に行く途中に団地の中を通り抜けたら、同じクラスの男子3人が遊んでいるのが見えた。
通り過ぎながら、「クラスの子?」とママがわたしに聞いた。「うん。」
安藤くんと中村くんと山崎くんだ。

買い物が終わって、帰り道にまた団地の中を通ると、安藤くんが道路の真ん中にうずくまって泣いていた。中村くんと山崎くんは、少し離れたところで困ったような顔で安藤くんを見ていた。
反対側に6年生が3人いた。
「どうしたの?」とママが安藤くんに聞いた。
「おれは中村くんと山崎くんと遊びたいのに、6年が自分と遊ばないとお前とは一生遊ばねーぞって言った。」
そっか。」
ママは少し考えた後、6年生3人に「こんにちはー」と挨拶をして、「低学年を泣かせちゃダメだよ!」と言って、「行くよ!」と自転車をこぎ始めた。
「安藤くんが泣いてた。」
「でもきっと明日も一緒に遊んでると思うよ。結局、いつも一緒に遊んでるんだから。」とママは言った。

次の日学校で安藤くんに「昨日、泣いてるの見たけど。」と言うと、安藤くんは「あー、うん。でも、今日も遊ぶ約束したんだ。」と言った。
『結局、いつも一緒に遊んでるんだ。』

意味

4人掛けのダイニングテーブルくらいの大きな箱と、兜の箱と張り子の虎の箱があって、その中身を飾りつけていくのだった。

兜の箱を開けると「祝 田中」と書かれたのし紙が入っていた。
「田中だって」
「でも今の私は田中家とは何の関係もないけど」と思う。
この五月人形は元々、夫の初節句に義母の実家である田中家から嫁ぎ先の夫の実家に贈られたものだった。私たちは特に五月人形にこだわりはなかったので、それを息子にそのまま引き継いだ。離婚するときにこの五月人形をどうするか夫に聞いたが、好きにすればいいとのことだったので私が引き取った。

大きな箱の中には小物の入った小さな箱がたくさん入っていて、その中に提灯の箱があった。提灯には家紋が描いてあって、反対側に「中村氏」と書かれている。
「中村氏だって」
「何か戦国武将みたいだね、このマーク。」
部屋の中で遊んでいた娘に提灯を見せると、娘は少しだけ笑った。
そうだ、そんなに面白いことでもない。ただ、自分の名前が大層に書いてあることが何だか笑える、ということは「正しい」。
私は離婚したとき、姓を自分の元の姓に戻さなかった。子供たちが周りから「中村◯◯さん」と呼ばれ続け、自分の名前として馴染んできたものを変える気にはならなかった。アイデンティティというほどのものではないが、私はそれが「正しい」と思ったからそうした。

私には男の兄弟がいないので五月人形というものの飾り方が全然わからない。飾ることに意味なんてあるのか?結婚していたときの飾り方を思い出しながら、箱の中に入っていた小さなパンフレットを見ながら何とか飾った。虎を組み立て、兜の箱の中から小さな鎧や兜を出して、木でできた骨組みに着せて、太刀や弓矢を並べて、紙でできた菖蒲や柏餅やちまきを鎧兜の周りに並べた。
箱の中で物たちはどれも茶色く変色してぼろぼろになった新聞紙や緩衝用の和紙に包まれていた。7年前に息子のために初めて飾ったときからそれらはすでにぼろぼろだったはずなのだが、なぜ取り替えなかったのだろうと思った。
35年前の地方紙。

夫のことも夫の実家のことも、それなりに嫌になって離婚したのだから、この五月人形は突き返すのが「正しい」ことだったのかもしれない。でも子供たちにとって「五月人形」といえばこの古い五月人形セットのことだったからそれを変えたくなかった。それもまた「正しい」。
少なくとも息子が五月人形に興味を示さなくなるまでは飾って、飾らなくとも20歳になるまでは持っておいて、20歳になったら突き返してやろうか、と思っている。今のところは。正しいか正しくないかはわからないが、私はそうしたいのだ。自分がそうしたいと決断したのなら、それはいつだってきっと「正しい」。

遊びから帰ってきた息子に「飾ったよ」と言うと、息子は「かっこいいじゃん」と言って張り子の虎を持ち上げてみたり、太刀や弓矢を手に取ってみたりした。
まだ、意味はあるようだった。

先のことなんて考えられない。でも来年もまた飾ろうと思ったので、とりあえずは大きな箱の角の破れているところをガムテープで補修して、色あせた新聞紙や和紙を新しいものに取り替えよう、と思った。それだけしか考えられない。

今度は『シャイニング』!

結論から言います。

大丈夫だったーっ!

 
以前『ローズマリーの赤ちゃん』を見ようとしたものの序盤で挫折した私ですが…。

 
少し前に読んだ『一個人』の映画特集に取り上げられていた『シャイニング』。そういえば『シャイニング』も『ローズマリーの赤ちゃん』と並んで「雰囲気怖い」映画としてよく語られているような…と思って見てみたくなりました。
 
今回は『ローズマリー』の反省を生かし、この映画を見るために有休を取って昼間に見ました。また、事前に予告動画を見て「これならいけそう」であることを確認。
見た結果は…面白かったーっ!ていうかこの映画かなり好き!!本編を1回見た後メイキングを見て、別の日にヴィヴィアン・キューブリックによるコメント付きメイキングも見て、その後もう1回本編を見てしまいました。
 
『シャイニング』が大丈夫だった理由は、昼間に見たこともあるけど脅かしてくる側が「幽霊」だからだと思います。悪魔は得体が知れないけど、幽霊なら馴染みがありますからね!
それから私は息子を出産する前は旅行に関係あるかもしれない(微妙)仕事をしていたので、無人のホテルが怖いと思えないのです。
大丈夫でよかったーっ!

さて、大丈夫なだけでなくかなり好きになってしまったわけですが、好きになってしまった理由は、まず映像のセンスの良さ。それから役者陣の演技から感じられる圧倒的な身体感覚、そしてサービス精神です。
まず映像のセンスの良さについてですが、「脅かし方の趣味が良い」。廊下に双子、237号室など、出るぞ出るぞと脅かした後にはちゃんと何かが出てきます。出るぞ出るぞ→出ない→予想外のところから出る、というようなことはないので監督を信頼して、安心して物語の世界に身を委ねられます。
それから、キューブリック作品に詳しくない私でも気づかされる画面の「対称性」。ロビーに敷いてある敷物の模様などがいちいち左右対称。私が特に好きなのは、序盤、ロビーで原稿を書いているジャックを妻が覗き込んだ後、二人が会話するシーンで妻の背景が左右対称なところと、ダニーがまさに左右対称!なカーペットの模様を利用してミニカーで遊んでいるところです。美しい。
そして「身体感覚」については、やはりジャックがドアを斧で破壊するところににつきます。もはや幽霊関係なく、熱すぎる演技です。あとトニーが「ダニーの口を借りて喋る」ことについて序盤は疑問を感じていたのですが、後半の「REDRUM!」を連呼するところで「これはダニーの口から発せられることに意味があったわ!」と感心しました。これも熱い。
サービス精神、はやっぱり、大量の血が出てくるエレベーターですね。あと「ジャックは今に気が狂う」の原稿。私はこれ、狂気というより感心してしまいました。文章の並べ方とか、文字が不規則に大文字になっていたりして。どちらもボリュームたっぷり、自信たっぷりで出してくるところがいい。そして自信たっぷりといえば「ジャーン!」と出るジャックの凍死シーンも。
なお、私はラストの写真については「ジャックは前世でホテルの支配人だった」派です。
 
ちなみに私が一番好きなシーンはジャックが初めてバーに行くところです。「え?さっきまで棚に酒なんてなかったよね?」と驚いて巻き戻して二度見しました。この自然な驚かせ方、ジャックも一緒に驚いているのでとても気持ちがいいです。やっぱり「脅かし方の趣味がいい」!
そして終盤に出てくる頭の割れた「盛会ですな」おじさんいいねえ…と思って「great party isn't it」で画像検索すると「彼」がたくさんいて吹き出してしまいました。やっぱりそうだよねいいよね!っていうか愛されてますね。

 

シャイニング 特別版 コンチネンタル・バージョン [DVD]

シャイニング 特別版 コンチネンタル・バージョン [DVD]

 

 

池袋から目黒まで

用事があって池袋から目黒まで家族3人で山手線に乗った。

子供たちは空いていた座席に座って、私は近くのドアの前に立った。
進行方向に向かって右側、たびたび子供たちの方を振り返りながら、私は窓の外の景色から目が離せない。7年前、息子が生まれる前は新宿のある会社で働いていて、池袋から山手線で通勤していたので懐かしい景色だった。

目白駅前の緑色のマンション。小さな住宅がたくさん。マンション。水の少ない神田川。マンションの外壁に入ったヒビや干してある布団や洗濯物が日の光にあたって輝いていて、私はそういった景色を愛おしいと思った。高田馬場駅のホームから見える、外壁を水が流れるビル。高田馬場駅を出ると、手前から奥に向かってカーブしながら登る坂が何本かあって、このカーブの具合は私が最近夢に見た「元夫が死ぬのを見届けた後、一人で町に戻る坂」のカーブに似ているな、と思った。あるいは7年前に見ていたこの景色が他の景色と合わさって夢に出てきたのかもしれない。線路のすぐ脇にある公園の雲梯は波のような形をしていて、小学生くらいの子が遊ぶのによさそうだ。鉄棒も高さがあっていい。
新宿が近付いて、私が働いていたビルも見えたが特に感動はなかった。それよりも雑居ビルの中に一つ一つ入った会社や店と、居酒屋の看板だ。新宿の先にはあまり行ったことがないので景色に懐かしさはない。茶色系が多いマンション、明治神宮の中で斜めに伸びる太い木、たくさんの枝の緑色。
そうこうしているうちに私も座れて、マンションを眺めたり、日の丸自動車学校の大きな丸を、見てごらん、と子供たちに教えたりしていたら目黒を乗り過ごしてしまい、逆回りに乗り直して戻った。

全部入りの『恐怖のおばけタワー』!

先日小2息子に「何でも好きな本を買ってあげるよ」と言ったら選んだのがこの本でした。

恐怖のおばけタワー

恐怖のおばけタワー

 
これから起こることは真実とはかぎらない。でも真実かもしれない・・・
わかっていることはただひとつ。読んだらキミは後ろをふり返れない・・・

 

1979年生まれの私にとって怖い話の本といえばマイバースデイの怖い話シリーズか講談社の『学校の怪談』シリーズかという感じですが。

学校の怪談(1) (講談社KK文庫)

こいつです!

 

書店の怖い話コーナーは現在も活気がありますね。

『新・学校の怪談』シリーズ、『怪談レストラン』シリーズ、成美堂出版の『うわさの怪談』シリーズ、ポプラ社の『ほんとうにあった!?世界の超ミステリー』シリーズ。

私が個人的に好きなのはポプラ社です。画像が多めなのが良い。『うわさの怪談』シリーズがマンガあり、心霊写真あり、読み物ありで昔でいうところのマイバースデイ系で、子供のころはマイバースデイ派だったのですが大人になって好みが変わったようです。

 

 さて、『恐怖のおばけタワー』。

この本は小学校高学年女子を対象にしたと思われる『うわさの怪談』シリーズより対象年齢が低く、迷路や間違い探しがあり、また全ての漢字にふりがながふってあるので低学年から楽しめます。長い読み物もあるので、読む力は必要ですが。

そして「恐怖」の内容ですが、都市伝説、超能力、UMA、ゾンビ、学校の怪談、心霊ゲーム…と一般的に「怖い話」としてイメージされるものは全て入っているのではないでしょうか。

都市伝説の章に「人面犬」「口裂け女」だけでなく「くねくね」も含まれているのが今日的です。学校の怪談の章がブログやLINEのトーク画面風のレイアウトで語られているのも面白い。

超能力、UMA、ゾンビは…普通の怪談好きとしては「え?これも入れるの?」という気もしますがまあ「恐怖」全般としては良いでしょう。でも…この本の特徴的なところは、「実在の犯罪者」「刑罰・拷問」の章があるところなんですよ!

 

「犯罪者」の章では、「エリザベート・バートリが自身を語る」コーナーから始まり、ボニー&クライド、エド・ゲインなども登場する「悪人列伝」と続く。この「悪人列伝」、登場する悪人は10人なのだがなぜかジョン・デリンジャー推しでエピソードが3つも入っている。あと最近の悪人はアメリカ中心。どういった基準でこの10人を選んだのかが気になる。小説や映画の題材になったもの(子供がその事件について調べたいと思った時、調べる手段が多い)?と思ったけど説得力がない気がする。

 

そして「刑罰・拷問」の章は「刑罰博物館」という形になっており、案内人が拷問・処刑用具についてわかりやすく説明してくれるのでかなり読ませる。「アナタにピッタリの拷問は?」のコーナーでは、10の質問に答えると「あなたにふさわしい」拷問がわかるようになっており、息子は「ギロチン」だったのですが、他の拷問も気になったようで「鉄の処女って何?」「ファラリスの雄牛って何?」などと聞いてくるので内心「ゲッ!」と思いましたが、変に隠すのもどうかと思い本に載っている内容を平静を装いながらそのまま読み上げました。

鉄の処女

これは昔のヨーロッパの処刑具だそうで、女性の形をした棺の内側にくぎがうめこまれております。罪人を中に入れてふたをしめると、内側にある無数のくぎが罪人の体をさすというしくみになっております。くぎは急所をさけるように配置されているため、罪人がすぐに死ぬことはありません。たえがたい苦しみを味わいながら息絶えるのであります。

こんな感じで。

 

このような「実在の犯罪者」「刑罰・拷問」についての読み物って自分が子供の頃はここまで低年齢向けの本には載っていなかったと思うんだけど。実際、どうかと思うんだけど!親子で一緒に読むのは(私が)居心地が悪い。こういうのは一人でこっそり読むべきものだと思うんだよね(実際、私の本棚にもそういう本は何冊かあるし)。息子には、まだそういった概念はないから「読んで!」となるわけだけど。

 普通の「怖い話」は、大勢で盛り上がった方が楽しいものだから(百物語とかね)、線引きした方が良いと思うんだけどなー。

 

あと、この本の最終章は「お化け屋敷の作り方」なんだけど、これが超実用的。お化け屋敷の装置作りのポイント、小道具、変装の方法、効果音などが詳しく載っていてお化け屋敷を作りたくなる。私は学童の保護者会の役員をやっているのですが、この本をもとに夏のイベントで「お化け屋敷」をマジで提案してみようと思っています。

 

こんな風に全部入りで実用的な『恐怖のおばけタワー』。なんと定価が850円とコスパが高すぎる。「実在の犯罪者」「刑罰・拷問」コーナーが気にならないという人は、怖い話の入門としていかがでしょうか…。